July 07, 2014

ディストピアの時間

家庭にロボットが普及し十数年。人間と見分けの付かないほど精巧なアンドロイドが実用化された未来。

すべてのロボットは登録が義務付けられ、位置情報や通信はリアルタイムでトラッキングされている。担当するのは科学技術省の一部署。令状なしに行われる通信の傍受、スパイ活動。上部組織への報告義務も監査もなく、責任者の一存で運用されている。他の省庁もそれぞれ独自に諜報機関を構えていないはずがない。専制主義的警察国家とは違う、テクノクラットによる管理社会である。一般人は気付きもしないか、あるいは安全と便利さのために当たり前のことと認識している。

ロボットの製造元は「メーカー」という普通名詞で呼ばれ、一社独占供給を暗示。サードパーティによる修理や、無許可での改造は一切認められておらず、発見された場合何らかの処罰が下され、機体も破壊される。ソフトウェアもブラックボックスだらけ。国外への持ち出しは禁じられている。産業の主導、管理が国家によって行われていることは確実。明らかに軍事転用技術である。

ロボット技術の躍進によると言われる高い食料自給率は、人口の激減が要因の一つに違いないし、同時に世界からの孤立、あるいは世界的な食糧危機が原因という見方もある。まあしかしコーヒーは潤沢なんだが。

ラッダイトとクークラックスクランを足して合わせたような反ロボット組織は、その活動内容から相当の規模と潤沢な資金が予想される。営利事業とは到底考えられない。恐らくは個人や団体からの寄付が主な収入源。パブリシティを見ても幅広い層から支持を集めている。
作中にはまったく登場しない貧困層、ロボットに雇用を奪われたはずの労働者階級。格差の拡大が生活圏の分離がもたらした結果だが、画面に登場しないこうした人々の存在がロボット排斥運動の下地となっていることは間違いないにしても、反ロボット主義は社会全体に行き渡っている。少しでも人間扱いしたり感情移入すれば異常、依存と騒ぎ立てる風潮。誰もがそれを当然と受け入れている社会。多くの人には反ロボットという意識すらないだろう。
人間とロボットを同一視してはならないと定めたロボット法が、反ロボット主義を保証し推し進める役割を担う。ロボットが体制への不満を逸らす捌け口として機能している。奴隷制であると同時にアパルトヘイト。もちろん各個人の自由意思に基づいているわけだし、ロボットは人間ではない。

などなど、枚挙にいとまもないほどディストピアっぷりを発揮する『イヴの時間』。主人公らの心情に共感するどころではない。