January 14, 2015

サイバーパンクプリパラ

『プリパラ』という女児向けアニメがサイバーパンクだという話を見かけたため、確認のために第1話を視聴した。

概要
 年頃になったすべての少女たちのもとに届けられる「プリチケ」。それは、アイドルやアイドルを目指す少女たちの集まる仮想世界「プリパラ」への入場券。どこにでもいるごく普通の少女らぁらは、プリパラに憧れる一人である。待ち望んでいたプリチケを手に入れたらぁらであったが、彼女の通う学校ではプリパラへの入場が禁止されており、どうしたものかと悩んでいた彼女だったが、たまたま街で拾ったバッグを持ち主へ届けるためプリパラ世界に入り込む。話の流れからオーディションに参加し聴衆から好評を博し、さらに伝説の歌声「プリズムボイス」の持ち主と目される。やり手のスカウトにも目を付けられる。ついに念願のアイドル活動を開始したらぁらが、トップアイドルを目指し仲間たちやライバルらとともに切磋琢磨しながら奮闘したりなんかしちゃったりする物語が次回から始まる模様。

 少女たちの意識は、現実の身体を再現したアバターと共に、現実世界から仮想世界であるプリパラへとシームレスに遷移する。驚異的なVR技術によって現実と見紛うばかりのフィードバックが得られ、現実世界とまったく同様に振る舞うことができる。作中人物が、経験や記憶に依らずして、現実世界とプリパラ世界を区別することは、極めて困難に違いない。まさに魔法と区別が付かない。さらに、文字通り虚空から降ったり湧いたりするプリチケの届き方ともなると、もはや魔法以外の何ものでもない。いくら高度に発達しても、ちょっと今世紀中に実現する望みは薄そうだ。作中での描写では、この世界の文明水準は2015年現在とさして変わらないように見える。舞台が未来に置かれていると考えても、その程度は今から見て10年か20年、せいぜいのところ30年といったところだろう。そう考えると、プリパラに用いられている技術は明らかにオーバーテクノロジーだ。この部分は一見荒唐無稽に見えるものの、以下に述べる一つの仮説により辻褄を合わせることはできる。つまり、この作品においては「現実世界もまた一つの仮想世界である」ということ、これである。

 そうであるとすると、現実世界とプリパラ世界の上位に、二つの仮想世界を作りあげたもう一つの世界の存在が予期される。上位世界の住人は、何の目的でこうした二つの仮想世界を作り出したのか。今の段階で確たることは言えないものの、その鍵を握っているのは、おそらく、主人公らの通う学校の校長である。
 他の学校では問題なく認められているにもかかわらず、校長は自校の生徒のプリパラへの立ち入りを不自然なほど強権的かつ偏執的に禁止している。推察するに、校長は現実世界がプリパラ世界と同様の仮想世界であること、上位世界の存在、プリパラと呼ばれるシステムの背後に隠された恐るべき陰謀的なものを、何かしらのきっかけからどうにかして知り得たのだろう。
 校長にとっては、たとえ現実世界がプリパラ世界と同様の作られた世界であるとしても、その世界が唯一の現実であることに変わりはない。同じ現実世界に生きる子供たちを上位世界の目論み(それが何であるかは今のところ明らかになってはいないが、きっと悪どいことに違いないし、話が進むにつれてそれと知られるようになることだろう)から守ったりするため、愛する子供たちに憎まれると知りながらもプリパラ世界への出入りを禁止せんとする校長の姿は疑問の余地なく崇高であり、自分で考えながら涙を禁じえない。

 ついでに言うと、プリチケは少女たちのもっとも個人的な時間と場所を狙い出現する。これは街全体から家庭内に至るまで、市民にプライバシーが一切存在していないということを示している。だが、誰もそのことを気に掛けようとはせず、当然のように受け止めていることから、プリパラシステムが社会と一体化するほどの規模で監視体制を構築しており、それが内面化するまでに市民の意識に浸透していると見なすことができる。たとえ仮想世界ではないとしても、この世界は依然として徹底された管理社会である。らぁらが持つと言われるプリズムボイスという能力は、もしかするとプリパラシステムによる世界支配に対して打ち込まれる楔のようなものであるのかも知れない。