January 18, 2015

表現の自由

 良識は、道徳の名において行き過ぎた表現を糾弾し、その自由を制限するべきだと主張する。言うまでもなく表現の自由は基本的人権に属するものである。人権は良識やモラルに先行するばかりか、それらと何ら関わりを持つものではない。このことは、以下に引用するボードレールの『鏡』という作品を読めば立ちどころに理解できるであろう。
 不細工な男は部屋に入るなり鏡に映る自分の姿を見つめ始めた。
「不愉快な気分になるだけだろうに、なんだって鏡になんて見入ってるんだ?」
 不細工の返答はこういうものだった。「いいかい、1789年の不滅の原理によればだね、どんな人間も権利の上では平等なのであって、つまり僕だって鏡に映る権利を有しているわけだし、それで愉快になるか不愉快になるかについては僕の勝手というものだよ」
 良識的な考えからすると疑いなく私の方が正しかった。とは言え、法の観点からすれば彼にも非はなかった。
そういえば、ボードレールも『悪の華』出版の際、風俗紊乱の廉で告発され発禁処分を喰らっていたのだった。済んだ話ではあるが。