不細工な男は部屋に入るなり鏡に映る自分の姿を見つめ始めた。そういえば、ボードレールも『悪の華』出版の際、風俗紊乱の廉で告発され発禁処分を喰らっていたのだった。済んだ話ではあるが。
「不愉快な気分になるだけだろうに、なんだって鏡になんて見入ってるんだ?」
不細工の返答はこういうものだった。「いいかい、1789年の不滅の原理によればだね、どんな人間も権利の上では平等なのであって、つまり僕だって鏡に映る権利を有しているわけだし、それで愉快になるか不愉快になるかについては僕の勝手というものだよ」
良識的な考えからすると疑いなく私の方が正しかった。とは言え、法の観点からすれば彼にも非はなかった。