January 26, 2015

プリパラ・リベレーションズ

あらすじ
 校長がプリパラを憎むようになったのは二十年前の事件がきっかけだった。当時の校長もまた「しゅがー」というハンドルネームでプリパラを楽しむ一人の普通の少女だった。しかし、プリパラ世界で出会ったソウルフレンド「ひめか」に騙され絶望の淵に立たされたしゅがー(校長)は仮想世界と友情の虚妄性を確信し、続く世代が同じ過誤を繰り返さぬため教育の道へ進みプリパラを子供たちから遠ざけることを決意したのだった。
 らぁららのライブを観たことをきっかけに、校長(しゅがー)はソウルフレンドひめかと二十年ぶりの対面を果たす。裏切りと信じていたものが実は誤解と不運なすれ違いの結果に過ぎなかったと知った校長(しゅがー)は、それまでの自分の考えが過ちだったと悟り、自校のプリパラ禁止令撤廃を決める。


 プリパラ世界のアバターは、現実世界の身体データを元に本人の願望や自己イメージを加味して作成される。このことはしゅがー(校長)、ひめか(ソウルフレンド)の両者ともに承知しており、多少その姿が違ったからといって、ずっと同じ場所にいながら互いにまったく気付かなかったということは考えにくい。このすれ違いは、同一空間にありながら二人がそれぞれ別の次元に存在していたために起きたものと推測される。突発的な不具合あるいは意図的な操作、どちらにせよ世界の仮構性によって実現する類のすれ違いである。

 それにしても、二人の仲はなぜ二十年もの間引き裂かれていなければならなかったのか。この疑問については、二人がその後も会えなかった理由、ひめかの学校でプリパラが禁止されたことがヒントとなる。つまり、しゅがーが校長となりプリパラを禁止することはあらかじめ決定されていたということだ。一部の学校でのプリパラ禁止は、プリパラ世界の多様性を維持するためとかそういった理由で設けられた条件だと思われる。しゅがー(校長)はそれを自分の意志だと思っていたのだが、計画された反復の一つでしかなかったのである。そんな計画をしたのは、もちろん創造主、上位世界の住人である。
 二十年もの間、些細な仕様の変更や流行の移り変わりを除けば、プリパラ自体に技術的な進歩や文化的な変化は見られない。現実世界が永遠の内にまどろむ無時間的な世界として創造されたことは明らかだ。プリパラ世界もまた、この永遠性を保障するものとして生み出されたサブシステムであると考えられる。この二つの世界があわせて一つの神話的世界を作り出していることはもはや言うまでもない。誤解の解消からプリパラ解禁を通じアイドル多様性を失わせ、そればかりか円環構造を基底とした世界の永遠性を破壊してしまう恐れから、二人の再会は長きにわたって妨げられていたのだ。もちろん創造主、上位世界の住人によってである。

 自分の生きる神話的世界の円環構造を、らぁらは意識しないうちに打ち破った。今後物語がどう推移していくかは知らないが、世界の存立理由が明らかになるとともに、真実に目覚めた主人公らぁらによる創造主への反抗、そして何らかの形での世界の解放が描かれることになるのは想像に難くない。この前見たマトリックスの影響は特にないはずである。

January 18, 2015

表現の自由

 良識は、道徳の名において行き過ぎた表現を糾弾し、その自由を制限するべきだと主張する。言うまでもなく表現の自由は基本的人権に属するものである。人権は良識やモラルに先行するばかりか、それらと何ら関わりを持つものではない。このことは、以下に引用するボードレールの『鏡』という作品を読めば立ちどころに理解できるであろう。
 不細工な男は部屋に入るなり鏡に映る自分の姿を見つめ始めた。
「不愉快な気分になるだけだろうに、なんだって鏡になんて見入ってるんだ?」
 不細工の返答はこういうものだった。「いいかい、1789年の不滅の原理によればだね、どんな人間も権利の上では平等なのであって、つまり僕だって鏡に映る権利を有しているわけだし、それで愉快になるか不愉快になるかについては僕の勝手というものだよ」
 良識的な考えからすると疑いなく私の方が正しかった。とは言え、法の観点からすれば彼にも非はなかった。
そういえば、ボードレールも『悪の華』出版の際、風俗紊乱の廉で告発され発禁処分を喰らっていたのだった。済んだ話ではあるが。

January 14, 2015

サイバーパンクプリパラ

『プリパラ』という女児向けアニメがサイバーパンクだという話を見かけたため、確認のために第1話を視聴した。

概要
 年頃になったすべての少女たちのもとに届けられる「プリチケ」。それは、アイドルやアイドルを目指す少女たちの集まる仮想世界「プリパラ」への入場券。どこにでもいるごく普通の少女らぁらは、プリパラに憧れる一人である。待ち望んでいたプリチケを手に入れたらぁらであったが、彼女の通う学校ではプリパラへの入場が禁止されており、どうしたものかと悩んでいた彼女だったが、たまたま街で拾ったバッグを持ち主へ届けるためプリパラ世界に入り込む。話の流れからオーディションに参加し聴衆から好評を博し、さらに伝説の歌声「プリズムボイス」の持ち主と目される。やり手のスカウトにも目を付けられる。ついに念願のアイドル活動を開始したらぁらが、トップアイドルを目指し仲間たちやライバルらとともに切磋琢磨しながら奮闘したりなんかしちゃったりする物語が次回から始まる模様。

 少女たちの意識は、現実の身体を再現したアバターと共に、現実世界から仮想世界であるプリパラへとシームレスに遷移する。驚異的なVR技術によって現実と見紛うばかりのフィードバックが得られ、現実世界とまったく同様に振る舞うことができる。作中人物が、経験や記憶に依らずして、現実世界とプリパラ世界を区別することは、極めて困難に違いない。まさに魔法と区別が付かない。さらに、文字通り虚空から降ったり湧いたりするプリチケの届き方ともなると、もはや魔法以外の何ものでもない。いくら高度に発達しても、ちょっと今世紀中に実現する望みは薄そうだ。作中での描写では、この世界の文明水準は2015年現在とさして変わらないように見える。舞台が未来に置かれていると考えても、その程度は今から見て10年か20年、せいぜいのところ30年といったところだろう。そう考えると、プリパラに用いられている技術は明らかにオーバーテクノロジーだ。この部分は一見荒唐無稽に見えるものの、以下に述べる一つの仮説により辻褄を合わせることはできる。つまり、この作品においては「現実世界もまた一つの仮想世界である」ということ、これである。

 そうであるとすると、現実世界とプリパラ世界の上位に、二つの仮想世界を作りあげたもう一つの世界の存在が予期される。上位世界の住人は、何の目的でこうした二つの仮想世界を作り出したのか。今の段階で確たることは言えないものの、その鍵を握っているのは、おそらく、主人公らの通う学校の校長である。
 他の学校では問題なく認められているにもかかわらず、校長は自校の生徒のプリパラへの立ち入りを不自然なほど強権的かつ偏執的に禁止している。推察するに、校長は現実世界がプリパラ世界と同様の仮想世界であること、上位世界の存在、プリパラと呼ばれるシステムの背後に隠された恐るべき陰謀的なものを、何かしらのきっかけからどうにかして知り得たのだろう。
 校長にとっては、たとえ現実世界がプリパラ世界と同様の作られた世界であるとしても、その世界が唯一の現実であることに変わりはない。同じ現実世界に生きる子供たちを上位世界の目論み(それが何であるかは今のところ明らかになってはいないが、きっと悪どいことに違いないし、話が進むにつれてそれと知られるようになることだろう)から守ったりするため、愛する子供たちに憎まれると知りながらもプリパラ世界への出入りを禁止せんとする校長の姿は疑問の余地なく崇高であり、自分で考えながら涙を禁じえない。

 ついでに言うと、プリチケは少女たちのもっとも個人的な時間と場所を狙い出現する。これは街全体から家庭内に至るまで、市民にプライバシーが一切存在していないということを示している。だが、誰もそのことを気に掛けようとはせず、当然のように受け止めていることから、プリパラシステムが社会と一体化するほどの規模で監視体制を構築しており、それが内面化するまでに市民の意識に浸透していると見なすことができる。たとえ仮想世界ではないとしても、この世界は依然として徹底された管理社会である。らぁらが持つと言われるプリズムボイスという能力は、もしかするとプリパラシステムによる世界支配に対して打ち込まれる楔のようなものであるのかも知れない。